来世で彼女が医師になりたい理由!?


先日、大学時代からの知人で、現在はフリーアナウンサー(芸能事務所所属)をしている女性と数年ぶりに会って話をした。

 

彼女は大学卒業後、かねてからの夢であったTV局のアナウンサーとなり、その後フリーに転身した後は、結婚し2人の子供の子育てをしながら現在も現役で活動中。更にそのフィールドは劇場映画監督、女優業、ミュージシャン、アナウンス講師…と幅広い分野に及んでいる。…その充実した生きざまに、少し羨ましささえ感じる時がある。

 

そんな「リア充の塊?」とも呼べそうな彼女だが、久しぶりに会って最初に口にしたのが「次に生まれ変わったら医者になりたい」というフレーズ。反射的に(世俗的な?)理由がいくつか頭に思い浮かんだものの、一応「どうして?」と尋ねてみる。彼女から返って来たのは(少なくとも自分にとっては)意外な理由だった。

 

曰く「医師はサービスを提供する側なのに、サービスを受けた側(患者さん)から必ずお礼を言われる…そのことが《本当に》羨ましい」とのこと。「そういう職業って、実はすごく稀なんだよ」と…更に私に向かって「普段、患者さんからお礼を言われるのが当たり前だと思ってるでしょう」と言い、小さく笑った。

 

「いや、ちょっと待って…」と思わず言いかける。「サービスを提供した側がお礼を言われる業種は、医療だけじゃないと思うけど…それに、お礼を言われるのが当たり前だと思っているなんて、そこまで傲慢では…」といった反論が頭をよぎるが「でも、案外当たっているのかもしれないなぁ」とも思い至り、言葉が出なくなってしまう。

 

それにしても、華やかな世界で長年第一線で働いてきたという履歴から、今まで「誉め言葉」「お礼」「励まし」など浴びるように受けてきたのだろう…などと勝手に想像して(≒高を括って)いたけれど、彼女が仕事の上で何よりも求めていたのが、「ありがとう」というシンプルな感謝の言葉だったという事実に、いろいろな事を考えさせられてしまう。

 

…自分が当たり前と感じている状況が、傍から見ると僥に映るという事は(何事によらず)思いの外多いのだろう。

 

ところで、患者さんが医療者にお礼を伝えるのは(日本人的な)礼儀正しさの表れかもしれないし、あるいは「医者は不機嫌にさせない方が得だ…」という警戒心(処世術)によるのかもしれない。幾分ひねくれた発想かも知れないけれど、そうした可能性も踏まえておかないと、とは思う。

 

また(動機が何であれ)相手から感謝を一方的に与えられるばかりというのも、妙に気が落ち着かない。そもそも医療も広義のサービス業であることは事実なのだから、顧客に対して謝意を伝えるのは筋だとも思う。が、だからといって患者さんに向かって「よく来てくれましたね、ありがとう。また来てくださいね!」などとストレートに言う訳にもいかない(多分)。

 

現状では「受診してくださってありがとう」という代わりに「どうぞお大事に」という常套句に、せめてもの感謝の気持ちを込めるくらいしかないのだろう。伝わるかどうかは分からないけれど…

 

ちなみに、その知人であるアナウンサーさんには近々、我々のクリニックの広報のためにちょっとした協力をお願いする予定である。その話については、また別の機会にお伝えできればと思う。

 

千代田区心療内科クリニックで昨年12月より(前の院長から引継ぐかたちで)院長を務めています。宜しければHPにも遊びに来ていただければ幸いです。

 

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